Session6 「心臓弁・血管」
演題26. 凍結同種大動脈組織を用いた感染性胸部大動脈瘤に対する治療経験
山本裕之,井畔能文,東 昭弘,松本和久,井ノ上博法,坂田隆造
鹿児島大学 心臓血管外科
人工血管を用いる感染性大動脈瘤手術は,術後人工血管感染,吻合部破綻,局所感染の再燃などのriskが高く,成績は不良である。心臓弁・大血管の感染に対し現在最も有効とされる,凍結同種心臓弁血管組織(homograft)を用いて良好な結果を得た3症例を経験したので報告する。
【症例1】52歳,男性。大動脈弁狭窄症に対し大動脈弁置換術を施行した.術後7日目に縦隔洞炎(MRSA)を併発し,胸骨開放・洗浄を行った。その後心筋保護液注入部,上行大動脈送血部から度重なる出血があり,縫合止血やパッチ修復を繰り返したが,局所感染のコントロールがつかず,術後3ヶ月目にhomograftを用いた大動脈基部置換術を施行した。術後は出血,感染をコントロールしえた。術後7年6ヶ月経過した現在も生存中である。
【症例2】49歳,男性。急性大動脈解離(DeBakeyVa)発症後,下行大動脈径が65mmに拡大し紹介入院となった。入院時より発熱,WBC,CRP上昇を認めていた。精査中に喀血をきたし緊急stent graft(SG)内挿術を施行した。喀血は消失し退院となったが,SG留置3ヶ月目にSG感染(MRSA),再喀血をきたし,homograftによる下行大動脈置換術,左肺下葉切除術を施行した。感染の再燃無く,術後2年経過した現在も生存中である。
【症例3】77歳,女性。発熱と嚥下障害が出現した。CTにて横隔膜レベルの大動脈に6cmの嚢状瘤を認めた。血液培養でEnterococcus faecalisが検出された。抗生剤投与後,homograftによる胸腹部大動脈置換術,homograftと大伏在静脈を用いた肋間動脈再建術を行った。術後感染の再燃,対麻痺の発生もなく良好に経過した。術後10ヶ月経過した現在も生存中である。
これら3症例のhomograftは西日本組織移植ネットワークをよりshippingを受けた。
演題27. Ross手術におけるホモグラフトの使用経験
萩野生男 八木原俊克 舩津俊宏 湊谷謙司 鍵崎康治 白石修一 小林順二郎
中谷武嗣 北村惣一郎
国立循環器病センター 心臓血管外科
【目的】Ross手術は、生理的な弁機能が得られ、抗凝固療法が不必要で、成長する可能性がある、などの利点が多く、我々は適応に準じて本術式を積極的に施行してきた。右室流出路再建(RVOTR)は、年長児以降では入手可能な限りpulmonary homograftを、幼小児期には自己組織と人工物を用いることを基本方針にしている。今回術式別による右室流出路関連事象を検討した。
【対象と方法】対象はRoss手術を施行した全82例(1992〜2006年、男55:女27)。手術時平均年齢14.1才(1ヵ月〜54才)。15歳以下52例(乳児例11)。術前診断は、AS 40、AR 26、ASR 13と人工弁機能不全3。RVOTRはpulmonary homograft 28(H群)、自己組織と人工物31(AG群)、自己組織のみ14(A群)、人工物のみ9(G群)を使用。心エコー上PR、TRを(-):0、軽度:1、軽―中等度:2、中等度:3、重度:4で評価。
【結果】平均観察期間は6.7+/-3.7年(1ヵ月〜14.4年)。手術時平均年齢は、H:24.1才(16-54才)、AG:8.0才(1ヵ月―24才)、A:9.1才(2ヵ月―21才)、G:15.7才(2ヵ月―38才)。再手術は、AG 3:IE1例(術後6ヵ月)、PRに対するreRVOTRとTRに対するTAP2例(術後2.4年、3.3年)、G 1:異種心膜ロール狭窄(術後11.8年)。再手術回避率は5年、10年ともに、H:100%、AG:87.7%、A:100%、G:100%、カテーテル治療回避率は5年、10年ともに、H:92.7%、AG:100%、A:92.3%、G:86.7%。最終エコーによる評価では、PS(mmHg)(p=.003) H:21.7±20.5、AG:8.1±6.9、A:13.1±18.6、G:14.6±16.1、PR(p<.001) H:0.7±1.0、AG:2.9±1.0、A:3.3±0.5、G:1.7±1.4、TR(p=.047) H:0.6±0.7、AG:1.4±1.2、A:0.8±0.9、G:1.0±1.1であった。PRとTRのあいだに有意な相関はなかった(p=.054)。
【結語】Ross手術におけるpulmonary homograftを使用したRVOTRは、術後軽度の狭窄が認められるものの、耐久性は良好であり、他の再建方法に比しPR/TRの発生が少なく右心機能保持の点から優位な術式と考えられた。今後はホモグラフトのさらなる普及が必要であると思われた。
演題28. Use of cryopreserved pulmonary allograft for right ventricular outflow reconstruction: the midterm follow up case report of 3 adult patients after Ross procedure
Ehson KARIMOV, Noboru MOTOMURA, Arata MURAKAMI, Minoru ONO, Haruo YAMAUCHI, Akihiro MASUZAWA, MD. Ayako OTSUBO, Eri KOMIYAMAand Shinichi TAKAMOTO
Department of Cardiothoracic Surgery, the University of Tokyo, Faculty of Medicine
The University of Tokyo Tissue Bank
Objectives: The use of cryopreserved pulmonary allograft is associated with good valve performance for long period, and freedom from anticoagulation therapy making them one of prostheses of choice in the reconstruction of right ventricular outflow tract in Ross procedure. Meanwhile, there is a lack of midterm reports on pulmonary allograft use in our hospital. Herewith we present our clinical data of cryopreserved pulmonary allograft in Ross procedure.
Methods and results: In our hospital three male patients underwent Ross procedure between December 1998 and August 2006. Patients’ age distribution at the time of operation was 12, 25 and 27 (mean 21.4). The background diseases were: i) congenital aortic stenosis with persistent left superior vena cava, ii) Tetralogy of Fallot with severe pulmonary artery stenosis, single coronary and major aorto-pulmonary collateral artery (MAPCA), and iii) pulmonary atresia with non-confluent pulmonary arteries and ventricular septum defect, respectively. The hemodynamics across the pulmonary allografts was studied using echocardiography after the operation. Follow up period was 4, 55 and 27 months respectively. None of patients were re-operated for valve related complications. The 12 years old boy had a history of previous palliative aortic commissurotomy and re-stenosis of aortic valve. He had received 25mm cryopreserved pulmonary allograft valve. Four months after the operation the pulmonary allograft showed trivial regurgitation with flow velocity of 1.6m/s. and good function of the right ventricle. The 25 years old man previously underwent Blallok-Taussig shunting, pulmonary artery plasty and embolization of MAPCA. We performed intracardiac repair with use of 25mm pulmonary allograft and left pulmonary artery plasty. The follow up echocardiography in four years and seven months demonstrated mild pulmonary regurgitation and mild pulmonary stenosis. The 27 years old man had the history of previous aorta to pulmonary shunting at his 5-th. His right ventricle outflow tract was reconstructed using 26mm pulmonary allograft and the right pulmonary artery was closed to avoid overflow of the right lung. Later he underwent next operation. The right pulmonary artery was reconstructed and the residual shunt in ventricle septum was closed. The echocardiography in two years and three months showed good allograft function with no stenosis. No anti-coagulation therapy was done to all three cases.
Conclusion: In these particular cases allografts were of valuable substitutes for right ventricle outflow reconstruction and have shown good performance in mid term follow up. Longer term follow up data is necessary to emphasize allograft superior function.
演題29. 解凍移植後に提出サンプルよりMRSAが検出されたホモグラフト症例に対する治療と感染対策
大坪絢子1)、本村 昇2)、村上 新2)、小野 稔2)、田村純人3)、山内治雄2)、益澤明広2)、
Ehson Karimov2)、小宮山絵梨1)、高本眞一2)
1)東京大学医学部附属病院 組織バンク、2)心臓外科、3)人工臓器移植外科
症例:2歳9ヶ月男児 肺動脈閉鎖を伴うファロー四徴症
2007年2月肺動脈ホモグラフトを用い、右肺動脈形成及び右室流出路再建を施行。術後抗生剤はCEZを使用。術後6日目39度の熱発を認め、CRP、WBC共に上昇。同日、術中に提出したホモグラフト解凍片から多剤耐性MRSA陽性が報告され、VCM投与開始。血液培養は一貫して陰性。その後炎症反応は消退傾向を示し、解熱傾向となるが、術後13日目よりCRP再上昇、熱発を認める。食欲・活気はあり、正中創部に発赤は認められず保存療法を継続。術後48日目胸部CTで感染所見に改善が認められ、炎症反応も消退。術後53日目退院。
組織バンクの対応:移植された肺動脈弁は、凍結前の培養検査では抗生剤処理前・処理後共に陰性であった。一方で、同ドナーの下行大動脈は抗生剤処理前検体よりMRSAが検出されていたが、抗生剤処理後では陰転化していた。調査のため、この下行大動脈を通常移植時と同様の環境・手順で解凍し、培養検査を行った所、MRSAが検出された。これより、下行大動脈(凍結前)の抗生剤処理後の培養検査は偽陰性であったと考えられた。下行大動脈と肺動脈弁は同一視野で摘出操作を行っていた事から、組織間でコンタミネーションを起こしていた可能性があり、また、それらを培養検査で検出する事が出来ていなかったことが判明し、以下のような対策を講じた。
今後の対策:MRSAまたは真菌が1検体からでも検出された場合は、同ドナーから摘出した組織は全て移植不可とした。また、検体採取時のサンプリングエラーを防ぐため、1組織につき2箇所以上から検体を採取し、容器はガム半流動培地の入った特注容器を使用する事とした。レシピエントに対しては、術前に感染伝播の可能性について十分に説明を行う事とし、説明書もより詳細を記載したものに変更した。
演題30. MRIによる移植細胞のin vivo 追跡技術
山岡哲二1)、橘 洋一1)、圓見純一郎2)、飯田秀博2)
1)国立循環器病センター研究所 生体工学部、
2)放射線医学部
【緒言】細胞移植治療の良好な効果が報告されているが、その治癒メカニズムの解明が進んでいないなど、細胞移植療法が一般的な治療法となるには問題点が多い。これまで、移植された細胞や組織の分布状態や生着率を低侵襲的に評価する技術がなく、そのために、細胞移植と回復過程との真の相関性を経時的かつ定量的に解析することはできなかった。そこで、細胞追跡用MRI(Magnetic Resonance Imaging)造影剤として、細胞膜非透過性の高分子キャリアーにMRI用造影剤を導入した高分子−造影剤コンジュゲートを開発した。
【実験】非生分解性高分子として知られているポリ(ビニルアルコール)(DP:1700, DS:98%)に対して、脱水縮合剤として1,1'-カルボニルビス-1H-イミダゾールを用い、任意の割合で1,3-プロパンジアミンを反応させた。さらに、側鎖アミノ基に対し、1,4,7,10-tetraazacyclo-dodecane-N,N',N'',N'''-tetraacetic acid (DOTA)を導入し、続いてDOTA内にガドリニウムを内包させることで、導入率の異なる3種類の生成物を合成した。モデル細胞としてNIH-3T3細胞に対して細胞ラベル化用造影剤を導入し、細胞内細胞内滞留性、細胞毒性、および、MRI造影効率を評価した。
【結果と考察】得られたコンジュゲートの細胞毒性は極めて低く、また、細胞の増殖を抑制することなく細胞質内に長期に亘って滞留できることが明らかとなった。さらに、T1測定を行ったところ、汎用性MRI造影剤であるマグネビストを凌ぐ造影効率が得られた。細胞内の限られた自由水であってもin vivo 造影効果が確認されたことより、本造影剤は、長期にわたって移植細胞を追跡できる初の技術であることが証明された。
演題31. 再生型組織移植用の脱細胞化スキャフォールドの開発
藤里俊哉1)、寺田堂彦1)、吉田謙一2)、澤田和也3)、湊谷謙司2)、江橋 具2)、庭屋和夫2)、永谷憲歳2)、山岡哲二2)、岸田晶夫3)、中谷武嗣2)、北村惣一郎2)
1)大阪工業大学、2)国立循環器病センター、3)大阪成蹊短大、4)東京医科歯科大学
脱細胞化スキャフォールドを用いた再生型組織移植では、移植後に患者細胞が浸潤することで、生物学的な自己修復の機転や患者の成長に伴う組織の成長が期待できる。既に、脱細胞化同種皮膚や血管が米国や韓国で商品化されている他、脱細胞化異種心臓弁はドイツで臨床例が報告されている。これらは全て、界面活性剤あるいは酵素処理によって脱細胞化されているが、組織によっては完全な脱細胞化が容易でなく、細胞毒性を有する処理液の除去も必要である。我々は、これらの薬液を使用しない脱細胞化処理法(パワーグラフト法)を開発し、動物実験によってその有効性を検討している。血管、心臓弁の他、角膜や筋肉、神経、皮膚等の脱細胞化について報告する。
ミニブタやラットから清潔下にて各種組織を採取した。洗浄後、冷間等方圧加圧装置を用いた980MPa(1万気圧)の超高圧印加による細胞破壊処理、及び残渣成分の洗浄除去処理を行うことで組織内細胞を除去した。脱細胞化した各組織を、同種あるいは異種動物に同所性に移植し、所定期間経過後に摘出して組織学的に評価した。
下行大動脈の同種移植では、破断や膨化は見られず、内腔面は平滑で、血栓の付着も認めなかった。移植12ヶ月後では、移植時の約1.5〜2倍の大きさとなり、前後の血管と完全に一体化していた。内腔面は血管内皮細胞によって完全に覆われており、組織内は大部分の領域で平滑筋及び線維芽細胞の浸潤を認めた。内膜付近にカルシウムの沈着を認めたが、石灰化は軽微であった。角膜実質部ミニブタ組織のウサギへの異種移植では、軽微な炎症反応を認めたものの、細胞浸潤は良好であり、透明性を維持しつつ周囲組織に定着していた。
本研究は厚生労働科学研究費、循環器病研究委託費、科学技術振興調整費、及び文部科学研究費の補助を受け、国立循環器病センター臨床工学部門及び病理部門の協力を得て行われた。
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