特別フォーラム(1)
「組織移植医療の定着を求めて」

 

1. 「組織移植と現状と将来について」

田中秀治1)2)、青木 大2)、島崎修次2)
1)国士舘大学体育学部スポーツ医科学科1)
2)日本組織移植学会 事務局2)

わが国の肝臓・心臓移植の成功率は世界的にみても高いレベルであり、移植医療の定着を感じさせる。一方、組織移植はその影で、ゆっくりとしかし地道に改善がすすめられてきた。臓器移植には日本臓器移植ネットワークというコーディネーション組織があるが、これに該当する機関は組織移植にはなく、医師の関与による質の担保と各組織バンクの努力によって組織移植に関するコーディネート活動、組織移植の経済的基盤の確立などに取り組んできた。そこで多くのバンクの協力を得、組織ネットワーク全体がまとまるために、東日本地域と西日本地域で組織移植に携わっている専門家が集まり、提供の実務を担当する東と西の組織移植ネットワークが構築された。また、並行して日本組織移植学会が設立された。この学会では、組織移植に係わる医学的な質の担保をおこなうために、さまざまな取り組みをおこなってきた。一方、東西組織移植ネットワークは提供の実務的な問題を解決してきた。
2001年に設立された日本組織移植学会においては、医療の質を担保すべく、ガイドラインの作成、倫理的指針、組織バンク開設基準などを次々と作成し広く提示してきた。また、コーディネーター認定作業、組織バンク認定作業などの種々の認定作業が行われ、学会自らが、会員の構成するバンクの質の向上について自己規制をおこなった。とくに国が進める先進医療の認定作業のなかで、日本組織移植学会の認定バンクとして審査をうけ、合格していることが、審査条件の一つとなっており、国の医療行政の一部を学会がそのクオリティを担保する画期的なものである。
このように組織移植は多くの医療従事者の努力によって成り立っている医療である。このことを認識し、日本組織移植学会が主導し、ガイドラインの制定、各組織バンクの体制整備、コーディネーターの教育など組織移植の質の改善とその普及に努めてきた。本口演では本学会の活動を主に、我が国の組織移植の現況について報告する。

 

2. 「組織移植医療の定着を求めて―膵島移植の立場から―」

剣持 敬1)2)、丸山通広1)2)、齊藤友永2)、大月和宣1)、西郷健一1)2)、圷 尚武1)2)、
岩下 力1)、宮崎麻里子2)、鈴木亜希子2)
1)独立行政法人国立病院機構千葉東病院外科、2)同臨床研究センター

低侵襲な糖尿病根治療法である膵島移植は近年成績が向上し、わが国でも2004年4月に臨床が開始された。わが国での現状報告と膵島移植医療の定着への条件を考察する。
[現状]膵・膵島移植研究会主導で進めてきたわが国の膵島移植の臨床は、2004年4月に開始され2007年3月までに64例の膵島分離、18人(33回)への新鮮膵島移植が施行された。2回移植、3回移植を受けた3名がインスリン離脱し、他も全例低血糖発作の消失ないし減少、インスリン投与量の減少、血糖の安定化が得られ、膵島移植の有効性が臨床的に示された。当院では4例の膵島移植を実施(10代・女性、20代・女性、30代・男性、20代・女性)し、合併症なく退院し、血中c-peptideの陽性化、低血糖発作の消失、インスリン必要量の減少、血糖値の安定化、HbA1Cの低下が得られた。2例に免疫抑制剤であるsilorimusの副作用である口内炎が見られたが、重篤な副作用はなかった。
現在、膵島分離に使用するリベレースの製造過程にウシ脳抽出物質の使用が判明したため、世界的に膵島移植の臨床は停止されているが、現在新たな酵素の開発が行なわれており、可及的早く膵島移植を再開する見込みである。
[定着への条件] Edmonton Protocolの成績は、短期的には良好(1年インスリン離脱率:80%)であるものの、長期成績は不良(5年インスリン離脱率:7.5%)である。定着に向け、長期成績の改善が必須である。また他の臓器移植と同様深刻なドナー不足も重要な課題である。現在、膵島分離・保存・膵島移植は各施設の経費または自費で行なわれているが、定着のためには先進医療、保険収載などの医療制度の確立が必須と考えられ、現在研究会レベルでの医師主導型治験を開始予定としている。膵島移植が医療として定着するためには、生着率向上、ドナー不足の解消、経済的基盤整備の3点は必須条件である。

 

3. 「組織移植医療の定着を求めて―研究転用について―」

雨宮 浩、鈴木 聡
NPO法人HAB研究機構 

近年、新医療技術、創薬の研究開発が進むなか、臨床試験に先立って、研究成果の人体における安全性と有効性を確認するため、新鮮人体試料を用いたex vivo実験の必要性がとみに高まってきた。われわれは人体試料、特に心停止死体からの腎提供に際して、移植非該当の臓器から研究用に組織の提供を受けることの可能性について、外部委員と多数の参考人の参加を得、関連法律(臓器移植法、死体解剖保存法、埋葬法、刑法190条(死体損壊)など)および関連行政指針(ゲノム指針、疫学研究倫理指針、臨床研究倫理指針など)について、違法性の有無、求められる倫理性について検討を重ねた。しかし、これらの法律は、われわれの目的する研究使用については想定されていず、遺体からの組織採取を規制するうえで適用できる法律ではなかった。ただし遺体に対する敬意、売買の禁止など、遵守すべきものがあった。行政指針では、ゲノム解析が行われる場合には、ゲノム指針を遵守する必要があるのは当然であり、またのいう個人を特定できる人由来の材料およびデータに関する情報保護については連結不可能匿名化が必要と考えた。
以上の議論から、試料採取部門とバンキング・配分部門が独立した別施設であることが必要との考えに立ち、研究用組織バンク内での体制と配分施設が関与するモデルを考えた。

 

4. 「組織移植の倫理面・WHO報告」

篠崎尚史
東京歯科大学市川総合病院・角膜センター  

 1991年に、WHOは移植医療のガイドライン(WHA57.18 “Guiding Principle for Organ Transplantation)をアップデイトするために、2003年、スペイン政府の援助によりマドリッド会議が開催された。2004年1月より2年任期の移植課がWHOに設置され、2期4年の検討期間で、2007年末には新たなガイドラインを作成し、WHAに上程する予定である。
  本会議は、Ethics, Access and Safety for Organ, Tissue and Cell Transplantation”と題され、従来のガイドラインに細胞・組織が追加された。また、倫理面でも従来の臓器売買の禁止の範疇では検討しきれない事情も増加してきた。フィリッピンの財団による生体腎のあっせんや、米国では生体腎移植の半数を超えた”Paired Donor”など、’91年時点ではそうていされていなかった事態が生じている。更に、細胞、組織の利用に関しても、国内に限定されていない国際シェアリングが活発となり、これらの事情に対応する事も今回の重要な目的となっている。
  組織に関しては、2004年のオタワ会議を皮切りに、組織移植の定義と、移植される組織の分類から開始され、2006年のチューリッヒ会議では細胞・組織移植における倫理問題として、Commodetyについても討議された。臓器とは異なり、細胞・組織に関しては金銭的な価値を定義すべきという経済学者からの提言もあり、人類が直面する科学技術の進歩と、我々の医療倫理観の相違点などにも言及される広範な会議を継続して実施している。
  また、今回の改訂では組織バンクの定義や運営主体の定義などもガイドラインに盛り込まれる事となり、2007年3月末にジュネーヴで開催された会議で、日本から、臓器・組織・細胞に関して、WHOが国際シェアーコード(International Share Coding System)を作るべきと提言した。欧州がISO準拠を基本として、ISBT128の採用に向けてEC諸国が足並みを揃えTTSでもレジストリーの国際化に向けてWHOと共同歩調を取る事となった。
  闇ルートの臓器売買を撲滅し、さらに移植患者の安全、トレーサビリティーの確保のためには、WHOが強いリーダーシップを示して、基準作りを行うべきであり、当学会もその旗手となって協力する事が望ましい。

 

5. 「わが国の組織移植について―行政の立場から―」

丹藤昌治
厚生労働省疾病対策課臓器移植対策室主査 

わが国における唯一の移植に関する法律である「臓器の移植に関する法律」では、骨・皮膚等の組織移植については対象としておらず、組織移植のための特段の法令はない。臓器移植法の施行に合わせて発出された「臓器移植法の運用に関する指針(ガイドライン)」の中で、「第11.6項(組織移植の取扱い)組織移植は通常本人又は遺族の承諾を得た上で医療上の行為として行われ、医療的見地、社会的見地等から相当と認められる場合には許容されるものであること」とされている。
また、組織移植の実施については、日本組織移植学会において、平成14年8月に「ヒト組織を利用する医療行為の倫理的問題に関するガイドライン」や「ヒト組織を利用する医療行為の安全性確保・保存・使用に関するガイドライン」等が作成され、平成17年12月より組織バンク認定制度が開始されるなど、学会を中心に進められているところである。厚生労働省としても、組織移植の一層の推進を図るため、本年度より組織バンクに対し組織の採取、処理、保存等に必要な設備を整備する事業を実施し、組織移植医療の円滑な実施を図ることとしている。
脳死者からの臓器提供を可能にした「臓器の移植に関する法律」が平成9年に施行され、10年が経過した。平成18年12月には脳死下臓器提供事例が50例を越えるなど、ドナーは徐々に増加傾向であり、移植医療は社会に定着しつつある。しかし、諸外国と比較して脳死者からの臓器提供数は限られており、国内でのドナー不足や、現行法上では小児からの臓器提供が望めないこと等から、海外で移植を受ける渡航移植が問題となっている。また、本来例外的であるべき生体間移植が増加し、愛媛県では臓器売買や腎疾患等の患者から摘出された臓器が移植されるなどの事件も出現し、移植医療に対する社会的関心は高まっている。
臓器移植法の改正案が国会で審議され、移植医療の是非があらためて問われる中、医療にかかわるものとして、移植医療においては、本人意思の尊重や任意性の確保、移植機会の公平性が保たれ、適切に進められていることを示し、社会を納得させていく必要があると思われる。